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4seasons



『臆病風に吹かれて』

ガールフレンドというものがいたとするなら、それは後にも先にもたった一人で、それは彼女のことにほかならない。
彼女は僕よりはるかに背が高くて、頭もよかったからどこかで劣等感にさいなまれていた。だから僕と彼女は13才という若さにもかかわらず、中学生があたりまえにする会話はもちろん、政治や恋愛、ときには自殺について、ありったけのボキャブラリーを駆使して議論を戦わせることがあった。ときに授業中ノートの切れはしに殴り書いてまで白熱し、担任に注意されることも頻繁にあった。僕は議論の中味よりも、初めて異性として対等に会話できる相手を見つけた喜びにひたっていた。もちろん、かなり背伸びをしていた。
ところが、僕は彼女と絶交してしまったのだ。今になると何が原因だったのか思い出すこともできないけど、たぶんとってもたわいないことだ。ふたりともとっても頑固だったので、絶交はどこまでも続いた。。最初こそ向こうから話しかけてくるに決まっているとたかをくくっていたのだけど、まったくそんな様子がないことに気付くにつれて、毎日がとても暗く無意味なように感じてきた。要するに僕は彼女のことが好きだったのだ。それはたくさん泣いてからわかった。だけど、僕はそのことを告白してばかにされるより、絶交を通して男を上げたほうがいいと結論づけた。なんともセンチメンタルで、ガキンチョだった。
それから、なんと4年の月日が経った。それまで、僕達は何度も話しをするチャンスが合ったにもかかわらず、頑なに一度も会話することがなかった。僕達は同じ高校へ進学し、2年生になると同じクラスになり、偶然にも二人とも保健委員に任命された。
4月のある日、学校で一斉に検尿検査があった。朝礼後、みんなのおしっこが入ったプラスチック容器をまとめて保健室に持っていくのは、保健委員の役目だった。僕と彼女はふたりして教室を出た。廊下には授業前ということもあって、誰一人として生徒の姿はなかった。僕の前を歩いている彼女のサンダルが、ぺたぺたと規則的に床を叩いている音だけが響いていた。それは、今だに僕と会話しようとしない彼女の頑なさを象徴しているように聞こえたけど、お互いに検尿を持っているというみっともない状況がそのシリアス感をやわらげているようにも感じられた。
検尿を保健室に届けると、僕たちは教室に戻るために3階の渡り廊下を渡った。北校舎と南校舎を繋いでいる渡り廊下は各々の階にあって、3階は最上階にあったからもちろん屋根なんかなかった。僕達はその外観から、渡り廊下のことをローマの水道橋や万里の長城に例えることがあった。そこを歩くと、制服をぽかぽかと暖めてくれるような4月の太陽がゆっくりと移動するのがまぶしかった。遠くの方には宅地化されて、消えつつある田んぼの緑が継ぎはぎのように点在している。ここから南校舎を見ると、長方形で組み立てられた教室が蜂の巣のように並んでいることに気付く。その中で勉強している千人以上の生徒達は、黒板の方をじっと見つめている。
時に誰かが背中を押してくれることもあるものだ。西から突然やってきた風は、僕と前を歩いていた彼女のほんの2メートルのすき間を狙って通り過ぎていった。スカートはうまい具合に風に舞って、少しだけ奇跡を起こした。
「見た?」
彼女はゆっくりと振り返ってそう言ったけど、その声にもちろん悪意はなかった。
「ねえ、ぼくたちがケンカしてたことは覚えている?」
と僕は言った。
「覚えてるよ」
『じゃ、僕が好きだったことは? 知っていた?』
その言葉は出てこなかったし、もうどうでもいいような気がした。彼女の身長が1センチも伸びない間に僕は25センチも大きくなってしまったし、声変わりもしていたから、どうでもいいような気がしたのだ。もちろん、臆病風も頭をもたげていた。
その質問はそれからまた4年後にすることになった。田舎に帰っていたときに、偶然彼女に会ったのだ。
「Yes」と彼女は当然という顔で、赤ん坊をあやしながらそう答えた。
僕はあれから1センチも背が伸びていなかったし、大学へ行ってよけい頭が悪くなったような気がしていた。

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